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東京地方裁判所 昭和52年(モ)5889号 判決

債権者 吉沢久蔵

債務者 朝日鉄工株式会社

主文

債権者と債務者間の東京地方裁判所昭和五一年(ヨ)第六二五〇号有体動産仮差押申請事件について、同裁判所が昭和五一年九月一七日なした仮差押決定はこれを認可する。

訴訟費用は債務者の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  債権者

主文同旨の判決

2  債務者

主文第一項掲記の仮差押決定を取消す。

債権者の本件仮差押申請を却下する。

訴訟費用は債権者の負担とする。

二  当事者の主張

1  申請の理由

(一)  債権者は、昭和四六年六月一〇日、その所有に係る別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という)を債務者に賃料一ケ月金二五万円、期間、二ケ年との約定で賃貸した。

(二)  債権者は、債務者を被告として、当地方裁判所に本件土地の賃貸借契約終了を理由として、本件土地明渡、損害賠償請求訴訟(以下本案訴訟という)を提起し、右訴訟において、本件土地の明渡と昭和四八年六月一〇日から本件土地明渡済みにいたるまで一ケ月金三五万円の割合による賃料相当の損害金及び債権者の右明渡請求に対し、債務者が不当に抗争したため、弁護士に事件処理を依頼せざるを得なくなりその費用として金一五〇万円を請求したところ、昭和五〇年五月一〇日から本件土地明渡ずみにいたるまで一ケ月金三五万円の割合による金員並びに右弁護士費用のうち金一〇〇万円の損害賠償請求権を有する旨の判決を得た。

よつて、債権者は債務者に対し、別紙請求債権目録記載の金二六〇万円について請求し得るものである。

(三)  ところが、債務者は、右判決に対して控訴し、かつ執行停止をとつて争う態度を示しており、また、本件土地の賃料は一ケ月金二五万円が相当であるとして当初より金二五万円の割合しか供託しておらず、しかもその供託も滞りがちであり、控訴審において右請求金額どおり認容されても執行に困難を伴うので保全の必要性がある。

(四)  よつて、本件仮差押決定は正当であるから認可されるべきである。

2  債務者の管轄違いの主張及び申請の理由に対する認否

(一)  本件仮差押の本案訴訟は、当地方裁判所民事第三三部に係属していたところ、昭和五一年八月二七日右事件の判決言渡しがあり、これに対し同年九月六日付で債務者が東京高等裁判所に控訴し、本件仮差押決定時には既に東京高等裁判所に移審していたものであるから管轄権を有するのは東京高等裁判所であることは明らかであり、当地方裁判所は管轄権を有しない。

したがつて、本件仮差押決定は、本来管轄権を有しない当地方裁判所でなされた違法なものであるから債務者はこれの取消を求める。

(二)  申請の理由(一)ないし(三)の各事実はすべて認める。

3  債務者の管轄違いの主張に対する債権者の答弁

(一)  本件仮差押の本案訴訟が、当地方裁判所民事第三三部に係属し、昭和五一年八月二七日に判決言渡しがあつたこと、右判決に対し、債務者が、同年九月六日付で東京高等裁判所に控訴したことは認める。

(二)  本件仮差押申請時においては、本案の訴訟記録は当地方裁判所に存しており、控訴審たる東京高等裁判所に右記録が送付されたのは昭和五一年一〇月二日であるから、本件仮差押申請については、当地方裁判所も管轄権を有するので債務者の右主張は理由がない。

理由

一  債務者の管轄違いの主張について判断する。

1  本件仮差押の本案訴訟が当地方裁判所民事第三三部に係属し、昭和五一年八月二七日に判決言渡があつたこと、右判決に対し、債務者から同年九月六日付で東京高等裁判所に控訴の提起がなされたことはいずれも当事者間に争いがない。

2  本件仮差押申請は、昭和五一年九月一六日当地方裁判所になされたものであることは記録上明白であり、本件仮差押申請のあつた当時は、本案訴訟の訴訟記録は未だ当地方裁判所に存しており、控訴審たる東京高等裁判所に右記録が送付されたのは同年一〇月二日であることは当裁判所に顕著な事実である。

3  ところで、本案が控訴審に係属しているときは、控訴裁判所がその管轄権を有することは民訴法七六二条但書に規定するところであるが、控訴の提起があつても本案の訴訟記録が第一審裁判所に存する限りは、審理の迅速と便宜をはかるため、第一審裁判所も管轄権を有するものと解するのが相当であるところ、前記事実によれば、本件仮差押申請のあつた当時は、本案の訴訟記録は未だ当地方裁判所に存していたのであるから、本件仮差押申請については、第一審裁判所たる当地方裁判所もその管轄権を有するものというべきである。

したがつて、債務者の右主張は理由がなく採用できない。

二  申請の理由(一)ないし(三)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

三  よつて、本件仮差押申請は理由があり、これを認容した原決定は相当であるからこれを認可することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 喜如嘉貢)

(別紙) 物件目録

千葉県東葛飾郡浦安町東野二六九〇番七四

一 雑種地 三、三〇五平方メートル

(別紙) 請求債権目録

一 金二六〇万円也

但し、このうち一六〇万円也は、債権者が債務者に対し、同人が債権者所有に係る別紙物件目録記載の土地を昭和五〇年五月一〇日より昭和五一年九月九日迄(一六ケ月間)不法占有したことに基づき有する一ケ月金三五万円也の割合の損害金の一部(一ケ月金一〇万円也の割合)として、その合計額。

又、残金一〇〇万円は債務者の不当抗争により、債権者が弁護士小室貴司に支払わなければならなくなつた弁護士費用。

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